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大阪家庭裁判所 平成11年(少ロ)2002号 決定

少年 N・K(昭和57.10.15生)

主文

本人に対し、9万6000円を交付する。

理由

1  当裁判所は、平成11年3月29日、本人に対する平成10年少第504130号、第504805号各道路交通法違反保護事件及び平成11年少第495号、第851号各窃盗保護事件において、前記各道路交通法違反保護事件及び平成11年少第495号窃盗保護事件の各送致事実を認定して、本人を保護観察に付したうえ、平成11年少第851号窃盗保護事件については、その事実が認められないことを理由として、本人を保護処分に付さない旨の決定をした。

ところで、前記各事件記録によれば、本人については、平成10年10月22日、道路交通法違反(原動機付自転車の無免許運転、平成10年少第504130号)の事件が在宅送致され、同年12月9日、更に道路交通法違反(共同危険行為、平成10年少第504805号)の事件が在宅送致され、調査官による調査が行われていた。ところが、本人は、平成11年2月1日、同年少第495号事件(以下、「第495号事件」という。)の送致事実と同一の被疑事実に基き逮捕され、その後勾留されて、同月12日、当庁に事件送致され、同日、観護措置決定を受けて鑑別所に収容されたが、同月24日、観護措置決定を取り消されると共に、同日、平成11年少第851号事件(以下、「本事件」という。)の送致事実と同一の被疑事実に基き逮捕勾留され、本事件は平成11年3月5日、当庁に事件送致され、本人は、同日、再度の観護措置決定を受けて少年鑑別所に収容され、審判期日である同月29日に同所を退所したことが認められる。

2  そこで、本人に対する補償の要否について検討するに、前記のように本人は、本事件による逮捕勾留及び観護措置決定により、合計34日間身体拘束を受けていたものである。ところで、第495号事件は本事件と同内容の窃盗(ひったくり)の事案であり、本人が本事件により再逮捕勾留されていなければ、その事件だけでも心身鑑別のために観護措置を継続する必要があった事案であり、現実にも本事件による観護措置決定による身体拘束は、本事件のみではなく、第495号事件や他の事件の審判のための本人の心身鑑別のために必要とされていたものと認められるから、通常心身鑑別に必要な期間に鑑みると、本事件による観護措置決定に基づく身体拘束期間のうち、少なくとも10日間については、少年の保護事件に係る補償に関する法律3条2号後段に該当するものと言うべきである(なお、第495号事件の観護措置決定に基づく身体拘束の可能な残日数は最大限15日間であった。)。

したがって、本人に対しては、本事件による身体拘束期間34日間のうち、24日間について、同法2条1項により補償することとする。

3  次に、補償金額について検討するに、上記保護事件の記録によれば、本人は本件による逮捕以前の任意の事情聴取の時点から、警察官に対し、本事件と同一の犯行場所において同一の共犯者と窃盗(ひったくり)を行った事実を認めていたもので、図面上での現場の特定についても本人が任意に行い、被害状況も本事件の被害者の供述と概ね齟齬することなく、被害金額についても大きな相違はなかったこと、本人は犯行期日が本件の1ないし2か月前であったと記憶していたが、被害場所等が一致していたことなどから、本事件が自己の犯行であると認識するようになり、捜査段階から一貫して本事件は自己の犯行である旨供述していたものであること、しかし、本人は本事件の当日、原動機付自転車の無免許運転により警察官に検挙されていたことから、調査の結果、いわゆるアリバイの存在することが認められるに至ったものであること、本人は平成10年3月中学校を卒業し、同年4月高校に進学したものの、1学期から欠席がちで同年10月頃からほとんど登校せず、第495号事件による逮捕当時にはすでに学校側から留年を言い渡されていたもので、本年4月から定時制高校への進学を希望していたものであるが、本事件当時稼働しておらず徒食し無収入であったことが認められ、これらに上記記録によって認められる本人の生活状況等諸般の事情を併せ考慮すると、本人に対しては、1日4000円の割合による補償をするのが相当である。

4  よって、本人に対し、補償の対象となる身体拘束日数24日間について、上記割合による補償金合計9万6000円を交付することとし、同法5条1項により主文のとおり決定する。

(裁判官 並木正男)

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